ドーン・オブ・ザ・デッド
DAWN OF THE DEAD
2004年/アメリカ
久し振りに映画の話をしようと思う。
「ドーン・オブ・ザ・デッド(以下DOTD)」は言うまでもなく同題を原題とするホラー映画史上の名作「ゾンビ(以下旧作)」のリメイクだ。
と、書き出したいところだが、結局の所これが全然違うシロモノになっている。
旧作も”ホラー映画”と呼ぶには余りにも恐怖描写が少なかったが、このDOTDもやはり単純にホラー映画とは呼べないだろう。
勿論観客を怯えさせ、震えさせる描写はあるものの、それは主として”びっくらかし”つまりお化け屋敷的な表現となっている。まあこの辺りがよくも悪くも現代的と言えるだろう。
旧作と違い、DOTDには物語の発端がある。
旧作では既に死者の跋扈が現象として認知され、次第に蔓延しつつある混乱の状況からスタートする。
しかしDOTDは(冒頭部に幾つか後の事態を匂わせる描写があるものの)平穏な日常から幕をあけるのだ。前作として”ナイト・オブ・ザ・リビングデッド”を持つ旧作と違い、単独の作品であるが故の当然の処置であろうが、これによって旧作ではその発端から色濃く漂っていた絶望感・逼塞感が薄まってしまっている事は否めない。
冒頭、近所の少女の襲撃に始まり、夫のゾンビ化、外へ出れば街の至る所に黒煙が上がり、車は暴走している。そして人が人を襲う様があちこちで見られる。車で逃走した主人公の看護婦が事故から警官と合流し、更に他の生き残りと出会ってともにモールに入るまで15分程だろうか?
そう、DOTDは展開が非常にスピーディーなのだ。
モール到達後もそのスピードは落ちる事無く、新たな登場人物の登場、様々なゾンビとの遭遇、そして脱出行に至るまで物語りはほぼ切れ間無く展開する。
旧作にあったあのジワリとした感覚はそこには微塵も無い。
このスピード感はゾンビそのものにも繁栄されている。
旧作ではノロノロと動き、人を見つけてはワラワラと群がってその肉を貪り食う。それがゾンビという怪物だった。
しかし今回は勝手が違う。
まず走る。
いや、走るなんてもんじゃない。両手を振りかざし、大きなストライドで全力疾走するのだ。その速度は驚くべきもので、車と競争する有様である。何だったら死んでからのほうが早いんじゃないか?などと考えてしまうぐらいの力強い走りっぷりである。これでは逃げる方もたまったものではないだろう。
運動能力の高さは他の面でも現れており、激しくジャンプしたり、人間に飛び掛ったり、あまつさえバク転までカマしてくれる。
勿論人によって感じる事は違うだろうが私などは物凄い勢いで走るゾンビを観て、笑いを堪えるのに必死だった。
またこれは非常に重要なことなのだがDOTDのゾンビは食人描写が少ない。殆ど無いと言っていいぐらいだ。
勿論肉を頬張るシーンもあるのだが、主に映るのは襲い掛かる所と噛み付いて殺すところだ。
人が人を食う。食人というタブーを当り前のように行うその事自体が「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」以降におけるゾンビという”怪物”を成立させる一つの要因だったと思うのだが。
DOTDのゾンビはゾンビというよりは狂った殺人鬼という感じだ。
ショッピングモールに集まってくる理由も旧作が”生前の記憶が残留しており、反射的にモールを訪れている”というものだったのに対し、DOTDは単純明快”そこに人間がいるから”である。
要するにDOTDのゾンビは、旧作のものよりもより能動的な存在となったのである。
またDOTDには”悪い人間”が殆ど登場しない。自分勝手なヤツは数人出てくるが、基本的に皆良い人である。ゾンビのバイカー集団のような連中は出てこない。
旧作におけるバイカーの襲撃シーンは、ある意味非常に象徴的なシーンだった。
バイカーたちは主人公の立て篭もるショッピングモールに易々と侵入し、ゾンビを面白半分に虐殺(という言い方も変だが)し、破壊を繰り返す。
主人公達にとってはゾンビよりもこのバイカーの方がよっぽど危険な相手なのだ。
危険・恐怖の対象としての人間とゾンビの境界線が非常に曖昧なのである。
DOTDではこうした旧作の要素をバッサリと切り捨てている。
勿論旧作を彷彿とさせるシーンもある。
モールの中でショッピング”ごっこ”に興じるシーンや、外をうろつくゾンビの頭を銃で打ち抜くゲームなどがそれだ。旧作中盤のあの平和なムードに似ている。個人的に最も気に入ってるのが、少し離れた所にある武器屋に立て篭もってる店主と、主人公側の警官のサインボードを使った遠距離チェスのシーンだ。若干の寂しさが漂っていて良かったと思う。
旧作ならここでバイカーが来襲し主人公達はモールを捨てざるを得ない状況になり物語は一気に動き出すのだが、DOTDではあくまでも主人公達が自発的に脱出を決意するのだ。
旧作は様々な意味で末世的な映画だった。淡白な色調の世界にノロノロと歩く死人が跋扈し、人の肉を喰らう。モールに立て篭もって歪んだ平和を楽しむ主人公達の最大の驚異は同じ人間たちだった。
あくまで淡々と物語は進み、終盤に一気に加速し、そして生き残った者達はまたあても無い緩やかな絶望の中へ逃げ延びていく。
寂寥感と逼塞感が混在する独特の映画であった。
だがDOTDは最初から最期までほぼ速度を緩める事無く進行する。次々仲間になる人物の登場、ショッピングモールという限定空間、散りばめられたアイテム、要するにゲーム的なのである。プレイヤーを飽きさせない程度のスピードで全てが進行している、そんな感じなのだ。
これはやはり現代的な演出と呼ぶべきなのだろうか?
映画としては中々に面白いと思う。少なくとも同じようなテーマの「バイオハザード」よりは面白いし、スリリングだ。
だが例えば貴方が旧作の熱狂的なファンだとか、ゾンビについては一家言ある、というような人は観ない方が良いかもしれない。そんな映画である。
でも、爆走するゾンビは本当に面白いですよ(笑)。