サウンド・オブ・サンダー
A SOUND OF THUNDER
2005年/アメリカ
原作:レイ・ブラッドベリ。
この一文を見た時、貴方の頭には何が過ぎるでしょう?
未だ本邦ではTV放映のみでソフト化すらされていないながら、SFといえば侵略宇宙人や怪物が幅を利かせていた1953年に、侵略意図の全く無い異星人の来訪を描いた先駆的意欲作「それは外宇宙から(IT CAME FROM OUTERSPACE)」でしょうか。
それとも怪獣映画の元祖的存在の一つである「原子怪獣あらわる」でしょうか?
はたまた書物の禁じられた世界でその魅力に取り憑かれる男の姿を淡々と描いた「華氏451」でしょうか?
それとも原作:レイ・ブラッドベリ、脚本:リチャード・マティスンという奇跡のようなコンビで、ミニシリーズながら手堅い出来映えの「火星年代記」でしょうか?
あるいは叙情溢れるダークファンタジー「何かが道をやってくる」?「ヒッチコック劇場」や「ミステリー・ゾーン」の1エピソード?そのものズバリ「レイ・ブラッドベリ・シアター」?
はっきりとここに断言しておこう。この映画は今上げた傑作・佳作群のいずれとも違う物を与えてくれるという事を。
原作となったのはハヤカワSF「太陽の黄金の林檎」に収録されている「雷のような音」。
とはいうものの、中身はハンコとバットほど違うので要注意です。
いや、一応原作のテーマというか骨格というか、そういうものは残ってるんですが、何せ元々が短編だったもんですからランタイム102分の映画のホンとしては色々と不足してるわけで、そこら辺りを暴力的なガッツと「ブラッドベリ? そりゃどんな喰いモンだ?」ぐらいのリスペクトでバッチリ補っちゃってるわけですよハイ。
時は西暦2055年、技術の進歩は遂に人類長年の夢であるタイムスリップを実現した。それをモノにしたのはシカゴの大手レジャーカンパニー”タイム・サファリ社”。彼らはコンピューターで間もなく死ぬ予定の恐竜を探し出して、その数分前に客に銃で撃たせる恐竜ハンティングツアーを企画してブイブイ言わせていた。しかしタイムスリップに際して守らなければならない3つのルール、1:過去の如何なるものも変えてはならない 2:過去にいかなるものも置いてきてはならない 3:過去のいかなるものも持ち帰ってはならない に違反した不届きな客のお陰で人類絶滅の大ピンチに陥る!!
てな話なんですが、原作を読んだ方ならお分かりの通り元々はこんな大げさな話ではありません。
主人公が恐竜を目の前にパニックを起こし、ルールを破ってしまったばっかりに自分の本来居た時代の様相が大きく変わってしまって慄然となる、という感じの話です(機会が有れば原作も是非ご一読を。というかブラッドベリの本はどれもお薦めなんですが)。
それが気が付けば人類絶滅までブローアップされちゃってるんですね。原作に色々ぶち込んで水増ししてあるのではなく、原作を前半30分ぐらいで片付けて、その先を勝手に作っちゃう、というのがこの映画の補い方なわけです。
その勝手に作っちゃった部分が凄い!
過去を弄ってしまったために現代が変わってしまうというエレメントは原作と同じなんですが、この映画ではその影響がなんと段階的にやって来ます。まずは気候から。そして次に原始的な植物、昆虫と来て爬虫類・哺乳類へと至るわけです。
「え? 過去が変わったのなら現代は”既に変わってる”んじゃないの?」とお考えのアナタ、アッマ〜イ!!
だってそれじゃ事件が終わっちゃうじゃないですか!! おばけやしきでも何でもビックラカシは小出しにするでしょ?
で、その変化をもたらすものですが、これが時間の波だと説明されてます。
で、どんなものかと見れば、これが何と半透明の津波なんですよ。そう、海の波みたいな感じ。いや、幾ら時間の”波”だからってそりゃねーんじゃないの?!などと突っ込む間もなく、地球はトカゲとマントヒヒを足して2を掛けたようなバケモノ(命名:トカゲヒヒ)や猛毒のトゲを持つツタ植物の支配する多々良島もビックリの大魔境になってしまいます。バウワンコ様にも助けて貰えそうにない主人公たちは何とか地球を元に戻す方法を探して右往左往しますが、次々とトカゲヒヒのエジキになってしまいます。
どうです? ツッコミどころ満載でしょ?
科学的な間違いや穴はもう指摘するのもバカバカしいほどですが、それより何より映画全体に漂う何とも言いようのないB級臭さは、最近の聖林映画が忘れてしまった猥雑さに満ちあふれているわけで、この手の映画好きには必見!と(無責任にも)申し上げておきましょう!
TVCMとか見てるとなんか「ジュラシック・パーク」なんかを彷彿とさせますが、実際には「レリック」に近い感じですね。そういや監督も同じピーター・ハイアムズだし。トカゲヒヒもコソガ(レリックのモンスター)にどことなく似てますしね。
大体フランチャイズ・ピクチャーにブラッドベリ原作の映画なんか出来るわけないんですよ。「バトルフィールド・アース」とか「ドリヴン」とか作ってる会社ですからね。
しかしピーター・ハイアムズ監督って本当に「カプリコン・1」以外ロクな映画ないですな。
「タイム・コップ」、「レリック」、「エンド・オブ・デイズ」・・・・・。
あ、この映画はナニですけどブラッドベリの映像化作品には傑作が多いので誤解なきように。
それにしても、この映画観て怒らなかったのかな、ブラッドベリ。
元々映画好きだし、こういうタイプの映画にも寛容なんだろうか(笑)?