バイオハザード

 なんとも、ゲーム映画の話だ。
 御存知の人は御存知の話なのだが、カプコンの傑作アクションADV「バイオハザード」は大きく映画を意識したゲームだ。
 物語、進行、ガジェット、演出。あらゆる側面に映画的手法が用いられている。
 要するにゲームのフォーマットで作られた映画であり、映画の手法で形作られたゲームなのだ。

 で、バイオハザードの映画化。
 所謂普通のゲーム映画とはワケが違う。ゲーム「バイオハザード」のプレイヤーたちは、映画ファンであるかどうかに関わらず、”映画的手法”というものにある程度精通しているのである。
 これが製作側にとってどれほど不都合な事か。
 まあ、この監督は恐らく考えていないだろう。
 何せポール・アンダーソン、「モータル・コンバット」や「ソルジャー」の監督である。

 さて、結論から言ってみよう。
 ワリと面白かった(笑)。
 勿論私はバイオのファンであり、映画ファンである。そういう観点から見ても”思ったよりも面白かった”.
 もっともこれは何も期待せずに見に行った反動、とも言えなくもないのだが。
 オープニング、おなじみ”緊急事態の発生”によって閉鎖され、中に居る人間が次々と”始末”されていく件は、中々に緩急のついた描き方で、ショック描写(というこの単語もどこか懐かしい響きだが)としてはまずまずの出来栄えだ。
 洋館から地下研究所への移動に列車を使っているのも嬉しかった。これもゲームをやった人には自明の理なのだが、何故かアンブレラは移動に軌道車両を好んで敷設している。
 他にも研究所の各所に、ゲームで見たような風景が散見出来るのが、ファンとしては楽しかった。
 またオバケ屋敷的ビックラカシも随所に散りばめられており、バイオを知らない人にはソレ系のホラー映画としてみる事が出来ただろう。
 モンスター”リッカー”の再現度の高さも好意点として挙げておいていいだろう。

 そして、ある意味最も注目されたのが、主役ミラ・ジョヴォビッチのアクションである。
 残念ながら思ったよりもファイトシーンは少なく(考えてみればゾンビやバケモノが相手だからあたりまえだが)、地下道でのゾンビ相手の短い戦闘シーンとケルベロス(ゾンビ犬)相手の三角蹴りぐらいだろう。
 だが、この三角蹴りが白眉だ。
 人によってはやり過ぎだの、マンガみたいだの言うが、誰が何と言おうとも、あれが最高の名シーンである。
 というわけで結構面白かった。

 だが、如何せんそこ止まりである。
 凄く面白いとか、実によく出来ているという風にはならないのだ。

 まず物語が単純で底が浅い。次に起こることがすぐに読めてしまうのは、まあホラー映画の宿命とはいえ、如何なものか。
 またコードを意識してか、ゴア描写が少ないのも些か物足りない。それが今まででたようなホラー映画と言うよりもショック映画と言えそうな印象の原因かもしれない。

 ただ、バイオハザードファンには、ラストカットに大きなプレゼントがある。
 一度見てみたかったもの、荒廃したラクーン市の様子が見られる。しかもその壊し方が実に絶妙なのだ。この1カットだけでもそれなりの価値を有していると思う。

 そして少なくとも間違い無く断言できるのが、今まで作られたゲーム映画で、一番マシだという事だ。
 もっとも、ゲーム映画の歴史、というヤツを紐解いてみれば、その事実もたいしたホメ言葉ではない事が分かるのだが。


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