フォーガットン
THE FORGOTTEN

2005年/アメリカ

 最初にハッキリとお断りしておくと、この映画オススメである。
 但し、劇場ではなくビデオスルーになったら。
 一週間レンタルで借りて、酒でも呑みながらチョボチョボ見るのに実に都合が宜しい。

 もしも貴方が、貴方にとって絶対間違いないと思っている事柄を、他の全ての人から寄って集って否定されたら、貴方はどう思うだろう?
 この映画の主人公テリーは一人息子のサムを飛行機事故で失ってから14ヶ月たった今でも深い喪失感にさいなまれていた。
 精神科医のマンスの所にカウンセリングに行こうとした彼女は、路上駐車してあった自分の車が無い事に気付く。車は直ぐ近くに駐めてあったが、それから彼女の周囲では少しずつ何かがズレ始める。
 マンス医師のオフィスでは飲んでいたコーヒーが突然消えてしまう。その事を訴えるとマンスは「コーヒーは最初から飲んでいない。私のコーヒーの匂いで飲んでいるという記憶を無意識に捏造しただけだ」と告げる。
 やがてテリーは絵本編集の仕事に復帰、そのお祝いをしようとした夜、彼女は夫と息子と三人で写っているはずの写真から息子が消えているのを発見する。夫ジムの仕業と思いこんだ彼女は逆上して家を飛び出してしまう。息子がよく遊んだ公園で自分と同じく飛行機事故で娘を亡くしたアッシュに出会うが、彼はテリーの話に怪訝そうな顔をするだけだった。
 そして異変は進行してゆく、息子の写真を修めたアルバムからは一枚残らず写真が消え、息子の姿を録画したはずのビデオには何も映っていない。
 全て夫の仕業だと思ったテリーはその職場に怒りの電話を入れるが、慌てて帰宅した夫から告げられたのは驚くべき事実だった。
 息子など居ない。ビデオには最初から何も映っていない。君は病気が治ってきたんだ。
 マンス医師も駆けつけて事情を説明する。
 彼女は一人息子を流産し、その際に自分も死にかけた。そのショックで自分の中に想像上の息子を創り出してしまったのだ。時間を掛けて治療するつもりだったが、今後は施設に入れて治療を行うしかない。
 思わず家を飛び出したテリーは図書館へ行き、飛行機事故の記事を捜したがそれは何処にも存在しなかった。
 息子をあやして貰ったはずの隣人に話をしても全く埒があかない。
 一人息子は、その死は、単なる妄想なのだろうか?

 物語の前半はこんな感じである。
 
どうだろう? 中々に面白そうな滑り出しではないだろうか?
 自分の中では間違いなく存在しているはずの息子の、その存在を否定され、貴方の心の傷が生み出した幻想だと言われる。
 彼女は息子が存在したことを躍起になって証明しようとするが、どうにも旨くいかない。
 遂に彼女はアッシュの家に押しかけ、彼に娘のことを問い質すが、娘はいないと言うばかり。
 だが遂に、テリーは息子達が存在していた証拠を掴む。
 アッシュの部屋のオフィス、その壁紙を破れ目から剥がしてみると、そこには壁一面にアッシュの娘が描いた絵が残っていたのだ。そこはオフィスでは無く、子供部屋だったのだ。
 テリーはアッシュの通報で駆けつけた警察に連行されますが、何故かそこへNSAが割って入って・・・・・


〜〜〜ここからネタバレしてます〜〜〜



 
ホラ、面白そうでしょ?
 一体誰が何のために息子たちの存在や記憶を消そうとしているのか? またどうやればそんな事が可能なのか? 国家安全保障局がどう関係しているのか?
 と、ココでアナタに質問です。
 この問いに対する、最もガッカリする答えは何でしょう?
 ハイ、正解は
”宇宙人の仕業”です。
 そうなんです! この物語の黒幕は
宇宙人なんです!! ♪チャララ〜チャララララ〜♪(矢追純一UFOスペシャルのBGM)
 もうその事が出た途端、話は狂ったように明後日の方向へ飛んで行きます。
 真相を漏らそうとしたNSAのエージェントや事態に気付いた女刑事はもう何かマッハスピードでアブダクションされます(CMでも一寸出てましたね)。
 アブダクションと言えばUFOから光が出てきてフワーっと吸い上げられたりするもんなんですが、この映画では壁や天上をブチ破ってズバーン!!なんて感じで空の彼方へと飛んでいきます。もしもこれがアニメなら最後に”キラ〜ン!”なんて星が輝きそうな感じですわ。
 「あ、”あぼ〜ん”って単語似合いそう」などと要らぬ事を考えてしまいました。
 で、まあ宇宙人は何かの実験で子供を攫っている、らしいのですが、その目的が”親子の絆を断ち切ってみる”とかいうモノなんですよね。
 いやまあ”心が理解できない”宇宙人の話ってのは特に珍しくも無いんですが、こんな回りくどい手を使おうって宇宙人は珍しいかも。
 この宇宙人さんは銃で撃っても車で轢いても特に死なないダイハード野郎なんですが、冷静に考えたら何で姿を現したのか分かりません。
 実験のジャマされないようにするためにも隠れてた方が良いかと思うんですが。
 結局テリーの記憶を消すことが出来ず、業を煮やした宇宙人は、叫ぶとガラスがバリバリ割れる安い超能力描写で彼女の脳ミソをリセットしようとします。
物語の構図はもう完全に「母ちゃんVS宇宙人」であります。それもタイマン。
 結局宇宙人は母親の愛に負けて実験も時間切れで終了、今までの被害者のように超高速でアブダクションされ、子供もみんな戻ってきてメデタシメデタシ。
 
もうここまで行けば私がこの映画をオススメする理由がお分かりでしょう。
 サイコスリラー、ミステリと見せかけて、実は
”矢追純一UFOスペシャル劇場版 2”だったんですよ!(あ、因みに1は「サイン」です)
 主要登場人物が少ないのに、その殆どが機能していない無駄な登場人物だったり、マンス医師が予想通りに事態に深く関与していたり、その割に何の訳にも立たないばかりか全く見せ場が無かったり、映画としての欠陥も多いわけなんですが、それもUFO事件の再現フィルムみたいなモンだと思えばガマンも出来るでしょう(無理か)。
 ホント言うと宇宙人の仕業なんかよりも実は頭のおかしい女の妄想でしたみたいなオチの方が良かったと思うんですけどねぇ。

 というわけでオススメなんですわ。これと「サイン」を借りてきて、矢追チックな気分に浸るのも中々オツなものかも。
 勿論その時は要所要所自分で”チャララ〜チャララララ〜♪”というBGMを入れましょう。

 あ、最後に一つ。
 マンス医師にゲイリー・シニーズってのはミスキャストだと思います。
 だって彼が普通の善人をやっても何か疑わしいんだもん。


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