宇宙戦争
WAR OF THE WORLD

2005/アメリカ

 観てきましたよ、「宇宙戦争」
 H.G.ウェルズの古典的名作で1953年に続く二度目の映画化・・・・なんて話は多くの人がご存じでしょうし、ご存じでなくても特に問題はないですね。
 
 さて、ネット上なんかでの評判を観ていると余り芳しくないようですが、私個人はそれほど出来の悪い映画だとは思いませんでした。
 ”原作と違う!”などという意見も目にしますが、それを言うなら53年版だって随分違います。私なんかトライポッドが出ると聞いただけで「あ、前(53年版)より原作に近いじゃん」などと思いましたよ。
 大体”火星からタコが攻めてきてボコボコにされちゃうけどタコ風邪ひいて死んじゃってカラスに喰われる”というラインを守っておけば、とりあえず宇宙戦争には見えるわけですから(多分に乱暴な物言いですが)、多少のアレンジは多めに見てあげるべきでしょう。まあ”ラストがあっけない”とか”宇宙人が説明不足”とかいう評を結構見かけるので原作知らない人も相当な数いるみたいですしね。

 確かに今作には色々と問題があります。
 かなりご都合主義だとか、クライマックスが無いとか、登場人物の書き込みが薄いとか。
 しかし、監督のスピルバーグにとってそんな事は些末な問題だったんじゃないでしょうか?
 というのもこの映画を見る限り、彼は”マーシャン・ウォーマシンに蹂躙される人類を描きたかっただけ”だとしか思えないからです。
 それほどに、トライポッドの破壊と殺戮は力を入れて描かれていました。
 逃げまどう人々をあざ笑うかのように大地を割って立ち上がるトライポッド。その光線を浴びて砕け散る建物。崩壊する街。灰化する人間。
 その様相たるやさながら”宇宙から来たプライベートライアン”のようです。
 どう見てもリキが入ってるんですよ。気合いバリバリなわけです。
 個人的に最大の見せ場だと思うのはハドソンリバーの下りですね。
 一刻も早く逃げたいが為にフェリーボートに雪崩れ込む群衆。その後方、丘の上に怪音を響かせて現れるトライポッド! 急いでボートは出港するも、水面下からボートの至近距離に現れるトライポッド!! お約束なれど息を呑む展開。この辺りは殆ど怪獣映画です。
 反面、トム・クルーズ演ずる湾岸労働者とその子供達のキャラ逃避行や途中に起こる様々な出来事の描写は割と淡泊です。
 頭のおかしい過激なじいさんオグルビー(この人も原作と違うような・・・・・)との痛々しいやりとりも、余り切迫性を感じないのです。
 トライポッドに捕獲された時も結構適当に脱出してしまうし。
 でも捕獲した人間を殺して血を抜き取り、辺りにまき散らして”赤い植物”を育てる(要するに人間を肥料にしている)シーンは結構キますよ。
 つまりこの映画、火星人絡みのシーン以外は特にどうという事もないシロモノなんです。

 一応火星人達は原作通りに病原体にやられてしまいます。
 トム親父と娘は別れた奥さんの所に無事辿り着きます。
 途中で分かれた息子も無事辿り着いています。
 メデタシメデタシ、と映画は幕を下ろします。でも小屋が明るくなって席を立つ時、脳裏に浮かぶのはマーシャン・ウォーマシンの脅威だけでした。

 要するにSFだと思っちゃいけないんです。
 アクション映画でもありません。
 これはカタストロフ映画、いや一種のディザスター・ムービーなんでしょう。
 何だか得体の知れないヤツに街が壊され、人が殺され、そして人間の嫌な部分をたっぷり見て、そして知らない間に脅威が去る。
 人知が及ばないという点でもディザスター・ムービーの資格は十二分に満たしているのではないかと思う次第です。

 で、最後にこの映画のマイナスポイント
 
火星人がタコじゃない!!
 何と言ってもこの点に尽きます。
 文明も人類もボコボコにされてどんなヤツが敵なんだろうと思ったところ、トライポッドからヘロヘロのタコがヒョコヒョコ降りてくる。これが味じゃないですか。違いますか?

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